『日焼け読書の旅かばん』
目黒次は『日焼け読書の旅かばん』です。これは本の雑誌の「今月のお話」をまとめたもので、2001年4月に本の雑誌社から本になって、2014年3月にちくま文庫と。文庫化のときに『旅に出る ゴトゴト揺られて本と酒』と改題しています。あの何だっけ、角川文庫の改題シリーズよりはいいけど、これもそんなにいい改題ではない。
椎名まあまあ。
目黒おれが発行人をやめたあとに出た本なので、おれが作った本ではないけど、連載しているときはまだ発行人だったので、原稿の段階から読んでいるはずなんだ。でも全然覚えていない(笑)。たとえば、ナイターおやじに変身するってくだり。中継があると、その日の仕事をやりくりして、7時にはテレビの前でスタンバイするっていうのはすごいね。特に、中日巨人戦がある日は朝から落ちつかないっていうんだから、これはただのアンチ巨人の行動じゃないよね。
椎名巨人戦以外も見るよ。楽天の試合は楽天を応援して見ている。
目黒その日の仕事をやりくりしてテレビの前でスタンバイするってのは熱狂的なファンの弁だ。ひやかしではないよ。前からそんなに野球が好きだった?
椎名いや、若いころはテレビの野球中継なんて見たことがなかった。
目黒そのころはどうして見なかったの?
椎名だって3時間もテレビの前にいるなんて、時間がもったいないだろ。若いころは他にすることがいっぱいあったし。
目黒いまは他にすることはないと(笑)。
椎名中継を見ながらビールを飲むと、幸せだなあって思うよ(笑)。
目黒でも椎名は映画好きじゃん? 野球中継を見ている暇があるなら映画を見ればいいのに。
椎名野球中継が終わってから映画を見るんだよ。
目黒なるほど。
椎名どうせ眠れないから。
目黒あと、個人的に面白かったのが、「ぼくは二十二歳のときにサラリーマンになったのだが、最初の給料は一万円台だった。歳の数ぐらいは給料を貰いたいと思っていた記憶があるから、つまりは二万二千円以上は貰いたいなあと思っていたのだろう」と椎名は書いているんだけど、おれもまったく同じことを考えていた。
椎名そうか。
目黒二十三歳のときに三万円、二十四歳になったら四万円、二十五歳のときは五万円、歳の数だけ給料が欲しいと思っていたんだけど、いつも一万円足りないんだ。二十六歳のときは五万で、二十七歳になったら六万で、二十八歳で七万。結局その会社をやめるまでずっと一万足りなかった。しかし考えてみると、あのころは毎年一万ずつ上がっていたんだ。
椎名中小企業はベースの給料が低いからなあ。
目黒忘れていたこともあって、新宿御苑に本の雑誌の事務所があったころ、沢野も同じオフィスにいたっていうんだ。おれ、覚えていない。あいつ、いた?
椎名いたよ。野田さんもいたし。
目黒それは覚えている。野田知佑さんの秘書を雇って、その机がうちのオフィスにあったのは覚えている。というよりも椎名に頼まれておれが秘書の面接をしたんだよ。
椎名だから大所帯だったんだ。沢野と野田さんの連絡先になっていたから、賑やかだった。すぐ斜め前に木村の事務所もあったし。
目黒椎名が意識して本の話を多く書いたんだろうけど、エッセイ集というよりもさまざまな本の紹介書、といった風情がある。ここに出てくる本で、おれが個人的に興味を持ったのが『敵中漂流』という本。第二次大戦中にフィリピンからオーストラリアまで脱出漂流した男たちを描いたノンフィクション。日本人が悪役なのでちょっとという感じはあるものの、漂流記好きの人にはおすすめ、と椎名が褒めている本。映画化される予定、と本には書いてあったというんだけど、この映画は日本にきたの?
椎名来なかったんじゃないかなあ。
目黒この本のあとがきで、
そうしたら今回もなかなか自分では考えつかないようなタイトルになっていてびっくりした。中の構成も今までの「むは」シリーズとはだいぶ変わってなんだかスマートである。なかなかやるなあ、などと金子君のコンピュータの画面を見ながら思う。こうして時代とその仕組みはさらにどんどん変わっていくのだろうなあ。
と椎名が書いているように、字組みを変えたりして結構凝っている。多田進さんの装丁もいいし、おれのつくった本じゃないからあえて言っておきますが、これ、なかなかいい作りだよ。タイトルもやっぱり元版のほうがいいと思う。
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